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蓮巳のはなし②罪を問う編

蓮巳敬人の話をしましょう。

 

この期に及んで正体不明の男の話です。

突然タイトルが中二病になって申し訳ない気持ちです。

前回の記事において、蓮巳敬人がフラワーフェスからメインストーリーの合間に「正義の味方のように描かれた彼は一転して悪者になった」と書きました。

堕落した学園を救済した正義の味方。学園に圧制を敷く悪。彼は正義なのでしょうか。彼は罪人なのでしょうか。そもそも、蓮巳敬人の罪とは、生徒会の罪とは一体何を示すのでしょうか。今回はそれをテーマに、少し綴ってみたいと思います。

おそらく英智推しの方はあまり愉快ではない内容かと思います(わたしは英智のことが好きです)

 

まず、検討資料を集めるため、蓮巳の過去について軽くなぞってみましょう。

 

【追憶】

現在、二つの追憶イベントがありました。

そのどちらにおいても蓮巳敬人は姿を見せぬもののその存在はやたらに示唆されています。

なずな、宗が視点となる「追憶 マリオネットの糸の先(以下マリオネット)」では鬼龍紅郎を通して生徒会の動向が伝えられました。このとき、蓮巳は鬼龍にまるで彼女のように電話をし続ける様が描写されました。また、「俺ももう一枚噛んでいる」とこの期間内に鬼龍が生徒会側の勢力に手を貸したことも描かれたのがこのイベントです。

英智、つむぎが視点となる「追憶 集いし三人の魔法使い(以下エレメント)」では英智が蓮巳と三奇人について、これから起こす革命について口論しながらも話し合ったことが描かれました。

 

どちらも蓮巳は革命を起こす側、生徒会側で何か計画を練っていることが描かれているもののその姿は明確に描写されていません。

双方の追憶というイベントは五奇人VS生徒会(英智&蓮巳+つむぎ)を軸としているため、蓮巳はこれらの物語の中心にいる人物のはずです。しかし、その姿が描かれない。

それは、この物語が天祥院英智を主人公(=英雄)に据え蓮巳が紡いだ物語であるからではないでしょうか。作家がその小説の内に存在しないように、蓮巳敬人という人物はその渦中にありながらそこに存在していない。

しかし、当然本当にそこに存在しないわけではありません。英智の影として、fineの光に照らされ輝く月としてある蓮巳。逆をとれば、英智自身さえも影のようにしていたかつてのfineにおいては照らす輝きさえ与えられず、陰に隠されたまま行動をしていました。

 

生徒会の革命の筋書を描いた人物。それが、蓮巳敬人という人物です。

夢ノ咲というネームバリューに頼り切り堕落した生徒達。その現状を憂い、特に目立った生徒(=五奇人)を利用し、生徒達を扇動して生徒会による統治を遂行するための革命。

斉宮宗率いるValkyrieを崩壊させ、その斉宮宗の人格を分裂させ、かつて朱桜司のようであった月永レオの人格も壊し、博愛の朔間零を戦わずして絶望の淵まで追いやり、日々樹渉に公開処刑の場を誂え、きっと他にも多くの犠牲を払って踏み潰して、そしてただひとり天祥院英智に学園の頂点という光を浴びさせた、生徒会の革命。

旧知の仲でありユニットを組みまでした朔間零をすっかり老いぼれたように見えるほど放心させ、共に弓道部のために戦った友であるはずの月永レオの人格を破壊し、革命後は不在の会長に代わりその非難を一身に受け続けることとなる、生徒会の革命。

 

そして、革命後も生徒たちの自主的な行動(=B1)を弾圧し、生徒会の絶対権力を守り続けます。

筋書を描くことを担当した蓮巳敬人は、生徒会の中心であり、生徒会とは必要があったのかさえ分からないくらいの犠牲を生み、多くの可能性の芽を潰して回る集団です。

それが、追憶において描かれた蓮巳敬人と生徒会でした。

 

【誰が紡いだ物語か】

しかし、生徒会の行いがすべて蓮巳敬人の思い通りになったわけではありませんでした。

エレメンツにおいて描かれた物語の大本の筋書を作ったのは蓮巳であることは間違いありません。しかし、ストーリーテラーとその演者はろくな打ち合わせさえしていません。

日々樹渉によって下手くそとまで言われた台本で、彼らは踊っている状態です。

「ナイフを刺されて断末魔の叫びをあげならが死ねばいいのか、抱きしめてキスをすればいいのかもわからないので」

日々樹渉はこの台本の趣旨を、主役と結末をいちはやく悟り自身を悪役と定めます。しかし、この台本は不十分であるので、他の役回りも見えてしまう。日々樹は自分が悪役なのか姫なのか分からないという。

これは、日々樹に憧れる英智によって台本が歪んだために発生したものであると考えられます。

じっさい、英智は蓮巳の台本通りになんて動きません。そのたびに蓮巳が筋書を修正していって、そうして行われたのがこの革命です。

 

このへたくそな台本は、「元々蓮巳が思い描いていた台本」を英智が推測して「台本を意図的に・無意図的に壊し」ながら実行し、それを蓮巳が「たびたび修正して」作り上げられています。ぐちゃぐちゃです。話し合いをちゃんとなさいと言いたいところです。

じっさいに思い描かれた物語と、英智が予測した蓮巳の物語、蓮巳の予測した英智の物語が交錯さえしており、それぞれから見た物語がどこまで正しいのかさえ不明です。

しかしまともに話し合ってさえいないので、蓮巳による修正とは、なんとか身内に引き込んだ鬼龍を巻き込み暗躍していったものではないかと思われます。

 

つまり、この物語の台本を作ったのは蓮巳でも、完全に蓮巳によるものではありません。

 

【七夕祭における贖罪】

前回の記事にも載せましたが、蓮巳はメインストーリーにおけるS2でRa*bitsにあの待遇を強いたことを踏まえ、その贖罪に七夕祭のステージを明け渡しました。

蓮巳は自らの罪に対して自覚的な人物であり、また、それをきちんと背負う人物です。

しかし、生徒会が傷つけたはずの他の人物はどうでしょうか。

かつてロビンフッドと称して手をとり弓道部を無法地帯にした月永レオ。ユニットメンバーの幼馴染である斉宮宗。

蓮巳敬人は彼らに対し何の贖罪もしたように見えないのです。

Ra*bitsだけが特別なのか、もしくは、蓮巳自身は彼らに対しては本当に何もしなかったのか。

 

英智夢魔と罵った守沢千秋は、蓮巳に対してはある種信頼をしているような描写さえあります。(同時に深海奏汰からは「もう二度とあなたのことは信じない」とも言われていますが…)

このことからもやはり、蓮巳と英智の行動は少し違うほうを向いていたのではないかと思われます。

蓮巳は生徒会が踏み躙ったひとたちにわざわざ弁明はしないし、糾弾されたなら受け入れるでしょう。けれど、わざわざ頭を下げて回りもしない。それが、蓮巳と、生徒会が意図せずして傷つけた人々との距離感なのではないでしょうか。

 

【生徒会の弾圧】

メインストーリーにおいて描かれたB1を弾圧する生徒会。

そこでも、生徒会(英智)の意志と蓮巳の意志がかみ合うようでかみ合っていないことが伺えます。

 

蓮巳はB1を端から弾圧していきました。

英智は自らがB1を開催し、その圧倒的な実力の、支持の違いを見せつけました。

 

どちらも目的は生徒たちに生徒会の権力を示すことです。しかし、そのやり口がもたらす結果は異なります。

蓮巳はB1を弾圧することで、「本当はもっと輝けるはずなのに」という希望を残しました。本当はもっとできるのに、生徒会のせいでできないだけだ。また、生徒会に見つからなければ水面下で支持を得ることだって可能です。

英智は自らもB1を開催し、三奇人朔間零を公開処刑することで、その可能性さえ潰しました。朔間零さえできないことが、自分たちにどうしてできるでしょうか。

蓮巳と英智は目的がほとんど同じように見えて、そのもたらす結果が異なります。

 

【蓮巳が描いた筋書とは】

蓮巳は犠牲は少なくしたかったのではないかと考えています。

三奇人を五奇人に増やしたのは英智です。月永レオについて、蓮巳は関与してもいない。朔間零の処刑は英智の独断専行です。メインストーリーだって、犠牲を増やそうとはしなかった。

しかし彼は英智を完全に否定もしませんし、蓮巳の目的はほとんど英智と同じものなのです。

 

英智の目的を汲んだうえで、それを確実に実行できるようにお膳立てし、しかし犠牲を少しでも減らそうとしている。その犠牲の中には、英智自身も含まれているものだと考えています。

放っておいたら奇人ともども心中しそうな英智を繋ぎ留めながら、破滅的な英智の描いたストーリを修正している。

英智の目的が先行してあり、その上で物語を大人しく大人しくと修正している。英智がそれを面白く思わないのも頷けます。

 

では、蓮巳は何のために行動しているのでしょか。

蓮巳が生徒会の革命として本来思い描いた物語は、英智を最高のアイドルにさせる物語だったのではないでしょうか。

混沌とした学園を自分たちが統治してやろうなんていう正義の心から実行したわけではない。

そのままでは評価もままならない学院をドリフェスと生徒会で秩序付けて、明確に英智がアイドルとして優れていることを示すための評価基準として優れた三奇人を選定して、アイドルとして彼らに勝つことで英智がアイドルの頂点に君臨したのだと証明する物語。

それが、蓮巳の描いた物語だったのではないかとわたしは考えています。

だからこそその声援も支持も天祥院英智にあり、生徒会への非難は蓮巳敬人が受けている。煌めく英智の光を受けながらその不在時は遠い光を反射して弱く輝き、No.2として生徒会の権力を守り続けている。

英智のために夢ノ咲への入学を決めた蓮巳敬人という男が、そもそも自分自身のためにアイドルとして大成する理由もなければ、アイドル育成に特化した夢ノ咲の現状を憂う理由もありはしないのです。全ては天祥院英智のために。

 

けれど、文字通り血を吐きながらも頂点を目指す友を一番近くにいながら止めず肯定したのもまた蓮巳敬人です。

蓮巳にとって、生まれてしまった犠牲よりも、英智が輝く青春を送ることのほうこそが重要であったのです。しかし、自棄になったように犠牲を生み続ける友をまるごと肯定もしないのが、蓮巳敬人という男です。

生徒会の革命とは、英智と蓮巳による革命です。互いが少しずつ違う方を向きながらも多大な犠牲を払って実行された革命。その犠牲の量について、英智は半ば自分が夢を喰らったのだと開き直るように煌びやかに。蓮巳はその罪を自覚しながらも、それによって生まれた光を大事に守るように、二人は勝利宣言を響かせます。

彼らは多くの犠牲を生んだかもしれないけれど、彼ら自身もまた、傷つかなかったはずがないのです。

 

英智と蓮巳】

そうまでしてなぜ蓮巳が英智に尽くしたのか。

英智にとって蓮巳との出会いはそれこそ人生を変えたものだったでしょう。

自分を叱るひとなんていなくて、自分のことを一番に思うひとだっていなくて、どうせすぐ死んでしまうと自棄になった英智。彼にとって、自分を叱りとばして、一緒にいるときはまっすぐ瞳を見てくれて、英智の死の運命から目を逸らさず誰よりも真摯にその運命を考えてくれた蓮巳が、英智の未来を変えなかったはずがない。

しかし、蓮巳にとっては?

なんだって人並み以上にできて、なのに何をしたらいいのか分からなくて、後悔してばかりだった蓮巳敬人。そんな彼が、唯一、明確に自分が手助けしなくてはと、絶対に見捨ててはいけないと、まるで運命に導かれたように、自分じゃなくてはならないのだと思わせた相手が天祥院英智だったのではないでしょうか。

しかし、そんな蓮巳をもってしても、完全なハッピーエンドを紡ぎきれなかった(=衣更に語った「俺のできなかったことをしてほしい」)し、もう後戻りがきかないのもまた天祥院英智なのではないでしょうか。

(この段については多分ころころ意見が変わると思います、あまりに情報が少ない)

 

 

 

【余談:蓮巳と神崎】

これは、蓮巳のことが好きな人間が、蓮巳を肯定したいがために描いている文章のため、ずいぶんと蓮巳に好意的だと思われるとも思います。

しかし、わたし個人が蓮巳を肯定的に見る理由のひとつに、彼の人間関係があります。

本題とは外れるのですが、彼を慕う人物のひとりに、神崎颯馬がいます。

これは鬼龍紅郎でも守沢千秋でも類似のことが言えるのですが、神崎が一番顕著だと考えます。)

 

神崎は生徒会と直接関係はなく、なんなら生徒会のやり口は気に食わない。水面下の争いだって関係ない。S1でUNDEADに嵌めらた際さえアドニスにつられて機材の片付けを手伝おうとまでした男です。愚直で、単純で、誠実な男です。

 

そんな神崎が「公明正大」と称し、「そんな将にこそこの神崎颯馬は仕えたい」とまで言った蓮巳敬人という人間が、本当に汚れきったひとなはずがない。

そうわたしは思い、なんとかして最悪のストーリーを否定しようとしています。蓮巳敬人、幸せになってほしい。

蓮巳のはなし①ストーリー編

蓮巳敬人の話をしましょう。

 

堅物の生徒会副会長。生徒会長の幼馴染にして右腕。学院のNo.2ユニットのリーダー。長い説教は好きだけれど長ったらしい話をされるのは嫌い。寺の息子。左ハンドル。元漫画家志望。三奇人朔間零の友人。元デッドマンズ。だんだん不穏になってきましたね。

蓮巳敬人は定型的な真面目なつまらない男かと思いきや、その実見せる面があまりに多様でつかみきれない男です。

そうなんです、蓮巳敬人という男はね、ただの型に収まってくれるような男じゃないんです。見る度に印象が違っていて敷居が?高く見えますね。そんなことない、そんなことないんですよ。

基本的にあきらさんのストーリーを追っていきます。

ネタバレというより、ストーリーは一応知っているうえでの蓮巳推し視点からの解釈のひとつだと思って読んでください。

 

【フラワーフェス】

メインストーリーの前に、蓮巳敬人がメインストーリーの際どんな心持でいたのか少し予習したいと思います。

フラワーフェス、はじめての蓮巳敬人ランボです。

英智不在のfineの面倒を見ながら紅月が主体となってフラワーフェスに参加します。

その時の蓮巳は自信ありげに口角を上げた素晴らしいjpgなんですけれど、あの笑顔が示すものは自負と自信なんです。

多大な犠牲を払いながらも英智と敬人が必死になって築き上げた、「生徒会が牽引する正しい学園」の姿を目にして、自分たちは正しかったのだと、これからの夢ノ咲学園へ希望を胸に一歩を踏み出す。それがこの年度の蓮巳敬人の物語の幕開けです。

 

【メインストーリー】

メインストーリーでの彼は、主人公であるtrickstarの最初の敵として現れました。

S2にてスバルの大事な後輩を踏みにじり、学院に圧制を敷き、きっと輝けたはずのアイドルたちの芽を端から潰して回った男です。フラワーフェスの印象から随分離れましたね。正義の味方のように描かれた彼は一転して悪者です。

その結果、元ユニットメンバーの朔間零の手によって罠に嵌められtrickstarの輝く足掛かりにされました。

 

朔間零と対峙する羽目になったときの彼の心中は「不測の事態は苦手だが、冷静に対処しよう」というものでした。

あれだけ高圧的に他生徒達を弾圧しておきながら、何にでも対応できる万能じゃないんです、蓮巳敬人という男は。己が完璧だとうぬぼれてはいない。けれど、まるで己が完璧であるかのように繕い振る舞っているんです。

この時のボイスが蓮巳ボイスの中でも屈指の高校生らしい上ずった声なので是非聞いてください、梅原さんありがとう…

そして、彼のユニットの「いつも通りのことを正確に行うだけ」という性格は、彼のこの性質をカバーするためにあるように思いますね。

 

この時の蓮巳を囲う紅月の2人は、決して完全な蓮巳の味方とは言えませんでした。

まずは同じ三年生の鬼龍紅郎。trickstarに同情的で、生徒会のやり口の気に食わないというスタンスです。ただでさえ彼は、このvs trickstarの直前に蓮巳の手で後輩の初めての晴れ舞台(=龍王戦)を中止させられており、S1には出るかも怪しいほどでした。律儀で義理堅いほうなのでS1にはちゃんと出ました。ノベライズにおいてはもう少し鬼龍は蓮巳に同情的ですね。

次に二年生の神崎颯馬。神崎は「蓮巳個人」の味方ではあるものの、「生徒会」の味方ではありません。生徒会のやり口は気に食わない。生徒会長に刃だって向ける。しかし、蓮巳敬人という個人のことは心底慕っていますし、彼の助けになることなら喜んでします。

二人とも、蓮巳敬人が選んだ紅月のメンバーですが、蓮巳の目的(=生徒会の目的)には賛成していません。そんな中で、蓮巳敬人は、生徒会長不在の生徒会のトップとして、いつ会長が戻ってきてもいいように粛々と生徒会業務を行っています。

 

しかしそうやって会長のために。英智のためにと味方もろくにいない中奔走する蓮巳ですが、その英智さえまともに味方ではありません。

学院に戻ってきた英智は蓮巳が作り上げた堅牢な城になんて収まってくれません。SSの出場権を賭けたDDDの開催を宣言します。順当にいけばfineがSSに出場できないわけがないのに、そうなるだけの土壌を蓮巳は作ってきたのに、英智はそれを壊します。蓮巳が再戦を誓ったtrickstarに至っては解体さえします。緑髪の子かわいそう…

 

そして迎えたDDD。蓮巳の所属する紅月は参加しませんでした。

何故でしょうか。

英智の敵にならないためです。英智と対峙することは蓮巳の目的に反するためです。英智の目的を潤滑に果たすための駒として雑用を一身にこなします。

しかし、その際蓮巳は「紅月のDDD出場」は禁じませんでした。これが蓮巳は支持すれども生徒会は指示しない、が成り立つ所以だと思うのですが、蓮巳自身自分と紅月を切り離しているところがあります。蓮巳は紅月というユニットを英智の目的のために利用しますが、紅月というユニットを蓮巳だけのものとしては見ていない。そういうところが好きですね。

また、敵に塩を送るような真似さえしてみせます。衣更真緒。彼を紅月へ、と英智が言ったとき、確かに蓮巳は衣更を拒みませんでしたし、彼を気に入っていることを認めました。じっさい、気がきくほうではなく事務作業が得意なわけでもない二人を抱えて膨大な量の仕事を処理する蓮巳にとって、同じ生徒会で仕事の速い衣更を紅月に引き込めたのなら随分な収穫なはずなのです。

けれど彼はそれを是としなかった。

生徒会副会長としてではなく、蓮巳敬人という、ひとりの過去を悔いる男として、衣更の背中を押します。かつて何でもできる気になって、何をすればいいかもわからなかった自分を衣更に重ねながら、自分にできなかったことをしてほしいと。そして彼は、夢を仮託した後輩の輝く姿を目にしながらその出番に幕を閉じます。

 

メインストーリーでの彼は、その身に生徒会が生んだ生徒からの憎悪を一身に背負い、生徒会が生んだ輝きは英智のために捧げてひた走る役回りでした。そのうえ、そうやって駆けずり回ったところで何が得られるわけでもない、英智自身にさえ否定されます。そして最後に、そういったしがらみも立場も捨てた素の蓮巳敬人として後輩の背を押し、ろくに光が描かれないまま幕を閉じます。かわいそう…あまりにかわいそう…それなのに主人公の敵でなんだか面倒な性分のために読者からも反感を買いがちなわけです、か、かわいそう~~~!!!

 

さて、DDDに紅月が出場しなかったことに異を唱える人物がいるわけです。そう。天祥院英智そのひとですね。ですが英智が気に入らなかったのはそこだけれはありません。

 

【七夕祭】

七夕祭にて、Ra*bitsと対峙し勝利した紅月ですが、そのリーダーはとってつけたような理由を明朗に語りだし、勝者しか残れないはずのステージをRa*bitsに明け渡します。S2での贖罪を、ここで行います。

蓮巳は過去の自分の行いを否定はしません。けれど、そこでつけてしまった傷もまた、彼は否定しませんでした。

けれどここにも意を唱える人間がいるわけです。天祥院英智ですね。彼はRa*bitsをミートパイに仕立て上げようとします。お気に入りの斉宮宗を引きずり出し、大好きな渉を隣に侍らせ、過去の蓮巳との思い出を肯定して現在の蓮巳を否定します。メインストーリーといい、七夕祭といい、蓮巳は英智の味方であるはずなのに、英智はあまりに蓮巳にやさしくない。それは喧嘩祭への布石でした。

 

【喧嘩祭】

神イベこと喧嘩祭です。復刻やってください。本当に。これで蓮巳を好きになったユーザーは多いのではないでしょうか。

ここまで蓮巳にあんまりな仕打ちを繰り返してきた英智はついに紅月に解散をつきつけます。なぜ紅月が二番手に甘んじているのか。なぜDDDでfineの寝首を掻こうとしないのか。なぜ、天祥院英智は蓮巳敬人に一番を譲ってもらわなくてはならないのか。あまりに過保護な敬人に英智が絶縁状を叩き付けます。

 

喧嘩祭というB1は、学園全体を巻き込んだ盛大な幼馴染の喧嘩です。

幼い日、きっとふつうの子どもがするような遊びはしなかった少しずれた二人だけの世界を築いていた彼ら。どんなにわがままを言ったって叱られることのなかった英智を叱りとばした蓮巳。いつか英智のお葬式は敬人があげてくれるのだという、そんな約束をしたようなおかしな愛しいこどもたち。

彼らはいつしか対等ではなくなっていました。蓮巳は英智の右腕を名乗り、英智の駒となりました。けれど英智の望みはそうじゃない。ふつうの、ただの友達になりたい。そんなわがままを描いた物語が喧嘩祭です。

 

わがままです。これは英智のわがままです。しかし、学院の絶対である皇帝がこんな盛大なわがままを言えるのは、蓮巳敬人にだけなんです。

一度縁を切って、そして結びなおすまでの喧嘩祭。

これは、英智と蓮巳にとっての物語であると同時に、転校生をようやく蓮巳が認めた物語であり、紅月というユニットについて明かされた物語であり、鬼龍紅郎が「血よりも濃い絆」「我ら紅月」などと言い始めた物語です。

 

ここで明かされたのは、敬人と英智の過去でした。

かつて漫画家を目指していたはずの敬人が、英智をおいかけるように夢ノ咲への入学を決めます。「どちらも人を喜ばせる職業だろう」と。

英智には敬人の人生を奪ってしまったのだと、夢を喰ってしまったのだという自責があります。メインストーリーでは夢魔とまで呼ばれた英智が、奇人たちのことも喰い尽くした英智が唯一喰ってしまったことを悔いたのが蓮巳の夢です。

しかし蓮巳は否定します。自分は夢を喰われたりはしていないと。そしてそれを互いに伝えたこの日が、それぞれの再出発となりました。

 

英智を支えるために作られた「紅月」というユニット。英智のいるfineの圧倒的な光を受けることで輝く、決して自ら輝くことのないはずだったユニットが紅月でした。No.2に甘んじているのではないのです。No.1なんて眼中になかったのです。何故なら最強を最強たらしめるために存在するユニットだったからです。

fineが打倒されたことで、紅月の存在意義は消滅したも同然です。最強が最強ではなくなった現在、英智が敗れ、蓮巳と英智が必死になって掴み取った栄光が崩れ落ちた現在、紅月はNo.2である必要さえなくなっていたのです。

しかし、英智との縁を一度切った紅月だからこそ、「存在意義が消滅した」ということさえ消滅します。「血よりも濃い絆で結ばれた」彼らは、ここから生徒会も天祥院英智の光も関係ない、「自ら輝く月」となりました。

喧嘩祭という物語は、英智と蓮巳がまっすぐ対等になる物語であると同時に、生徒会ユニットの紅月が絆で結ばれた紅月に生まれ変わる物語でした。

 

【喧嘩祭~返礼祭】

時は一気に進み夏から冬へ、返礼祭です。

この期間の蓮巳は何をしていたかというと、ひたすらいい先輩をしていました。

 

流星隊と一緒になって行われた風雲絵巻ではひとりぼっちで同好会をする忍に好意的な言葉をかけ、いつまでも自分がいるわけではないからと神崎に紅月の代表を任せ後輩育成に努めます。絶対に神崎の味方であるとまで言ってくれました。

ロビンフッドでは弓道部において以外と奔放な一面を見せました。かつてレオと共に弓道部にいた怠け者たちを成敗し、いまの平和で無法地帯の弓道部を作り上げました。英智が壊したレオと蓮巳が組んでいた事実、恐ろしくてなりませんね。

ティーパーティーでは英智が蓮巳の同人誌を持ち出します。そして司とも少し舐められながらもまともに先輩後輩している姿が見られました。

エージェントでは人生初のクリスマスパーティーをしました。英智と敬人、双方の要望に応えながらなんだかんだうまいこと処理する衣更、という、英智のこと散々わがままと言うけれど敬人もわがままだよな…という甘えた一面も見せてくれました。

 

閑話休題、返礼祭へ参りましょう。

 

【返礼祭】

もう三年生は引退するのだからと言ってなるべく手出しをしないように努めていたはずの蓮巳が、なぜか唐突にいい笑顔でデッドマンズを名乗り出し蓮巳推しを混乱の渦へ落とし込んだイベントです。

 

蓮巳は過去を悔やみはすれども、過去を消し去ろうとしません。

己のしたことのひとつひとつがつけた傷も背負って生きてくれる男です。

その男がかつてユニットを組んでいた朔間零のために、一度は折った筆を再び執ったのがこのストーリーでした。蓮巳敬人が、旧友であり先輩である朔間への返礼のストーリーです。

連絡もろくにつかない神崎を案じながらも自身は影のように朔間零と大神晃牙を結びます。作家は物語を紡げどもその物語に存在しないように、蓮巳もまた物語を描きながらも影へと身をひそめるはずだったのです。

 

しかしまた、蓮巳自身も返礼をされる側でした。

ストーリーテラーとして全面に出ることのない蓮巳は、以後の追憶イベでは全く顔を見せません。しかし、同じく物語を紡ぐ側の存在であった返礼祭においては、神崎颯馬により笑顔を見せることとなりました。

この笑顔を、冒頭のフラワーフェスと比べてみてください。

フラワーフェスでは自信ありげで緊張感のある、自分で自分を肯定して作った笑顔だったけれど、一年の終わりに彼が見せた笑顔は自分のしたことを他人に肯定されることで湧き出た笑顔なんです。どのカードを見てもこれ以上にただただ感情だけが前に出たカードはないのではないかと思います。それだけの力のある☆3でした。

元々アイドルになりたくてなったわけではない蓮巳。英智のためにこの道を選んだ蓮巳がその先に辿り着いたのは、自分自身が築き上げた人間関係による祝福でした。

英智のためにアイドルをめざし、英智のためにユニットを作った蓮巳は、神崎によって英智とは無関係に肯定されます。そして、本来ならばきっと蓮巳が、ストーリーテラーが去ったあと、学園に残るのは英雄の名のみであるはずだったのです。蓮巳敬人は、紅月は、太陽が隠れてしまえば一緒に陰る存在であったはずだったのです。

けれどそうはなりませんでした。

喧嘩祭において英智に照らされて輝く月から自ら輝く月へと変化した紅月は、そのまま陰ることはありません。神崎から蓮巳への返礼は、紅月の存続でした。

 

これがひとまずの、メインストーリーのある年度における蓮巳敬人の一年です。夢ノ咲の影を背負いながらも光を信じた男の一年です。

 

でも言いたいことはまだまだたくさんあるんです…

過去の蓮巳と英智のはなし、デッドマンズの蓮巳のはなし、何を考えているかもつかめない蓮巳敬人の一貫しているぶぶんのはなし…それはいずれまた…そちらはほとんど妄想みたいなことになるとは思いますが…