蓮巳のはなし②罪を問う編

蓮巳敬人の話をしましょう。

 

この期に及んで正体不明の男の話です。

突然タイトルが中二病になって申し訳ない気持ちです。

前回の記事において、蓮巳敬人がフラワーフェスからメインストーリーの合間に「正義の味方のように描かれた彼は一転して悪者になった」と書きました。

堕落した学園を救済した正義の味方。学園に圧制を敷く悪。彼は正義なのでしょうか。彼は罪人なのでしょうか。そもそも、蓮巳敬人の罪とは、生徒会の罪とは一体何を示すのでしょうか。今回はそれをテーマに、少し綴ってみたいと思います。

おそらく英智推しの方はあまり愉快ではない内容かと思います(わたしは英智のことが好きです)

 

まず、検討資料を集めるため、蓮巳の過去について軽くなぞってみましょう。

 

【追憶】

現在、二つの追憶イベントがありました。

そのどちらにおいても蓮巳敬人は姿を見せぬもののその存在はやたらに示唆されています。

なずな、宗が視点となる「追憶 マリオネットの糸の先(以下マリオネット)」では鬼龍紅郎を通して生徒会の動向が伝えられました。このとき、蓮巳は鬼龍にまるで彼女のように電話をし続ける様が描写されました。また、「俺ももう一枚噛んでいる」とこの期間内に鬼龍が生徒会側の勢力に手を貸したことも描かれたのがこのイベントです。

英智、つむぎが視点となる「追憶 集いし三人の魔法使い(以下エレメント)」では英智が蓮巳と三奇人について、これから起こす革命について口論しながらも話し合ったことが描かれました。

 

どちらも蓮巳は革命を起こす側、生徒会側で何か計画を練っていることが描かれているもののその姿は明確に描写されていません。

双方の追憶というイベントは五奇人VS生徒会(英智&蓮巳+つむぎ)を軸としているため、蓮巳はこれらの物語の中心にいる人物のはずです。しかし、その姿が描かれない。

それは、この物語が天祥院英智を主人公(=英雄)に据え蓮巳が紡いだ物語であるからではないでしょうか。作家がその小説の内に存在しないように、蓮巳敬人という人物はその渦中にありながらそこに存在していない。

しかし、当然本当にそこに存在しないわけではありません。英智の影として、fineの光に照らされ輝く月としてある蓮巳。逆をとれば、英智自身さえも影のようにしていたかつてのfineにおいては照らす輝きさえ与えられず、陰に隠されたまま行動をしていました。

 

生徒会の革命の筋書を描いた人物。それが、蓮巳敬人という人物です。

夢ノ咲というネームバリューに頼り切り堕落した生徒達。その現状を憂い、特に目立った生徒(=五奇人)を利用し、生徒達を扇動して生徒会による統治を遂行するための革命。

斉宮宗率いるValkyrieを崩壊させ、その斉宮宗の人格を分裂させ、かつて朱桜司のようであった月永レオの人格も壊し、博愛の朔間零を戦わずして絶望の淵まで追いやり、日々樹渉に公開処刑の場を誂え、きっと他にも多くの犠牲を払って踏み潰して、そしてただひとり天祥院英智に学園の頂点という光を浴びさせた、生徒会の革命。

旧知の仲でありユニットを組みまでした朔間零をすっかり老いぼれたように見えるほど放心させ、共に弓道部のために戦った友であるはずの月永レオの人格を破壊し、革命後は不在の会長に代わりその非難を一身に受け続けることとなる、生徒会の革命。

 

そして、革命後も生徒たちの自主的な行動(=B1)を弾圧し、生徒会の絶対権力を守り続けます。

筋書を描くことを担当した蓮巳敬人は、生徒会の中心であり、生徒会とは必要があったのかさえ分からないくらいの犠牲を生み、多くの可能性の芽を潰して回る集団です。

それが、追憶において描かれた蓮巳敬人と生徒会でした。

 

【誰が紡いだ物語か】

しかし、生徒会の行いがすべて蓮巳敬人の思い通りになったわけではありませんでした。

エレメンツにおいて描かれた物語の大本の筋書を作ったのは蓮巳であることは間違いありません。しかし、ストーリーテラーとその演者はろくな打ち合わせさえしていません。

日々樹渉によって下手くそとまで言われた台本で、彼らは踊っている状態です。

「ナイフを刺されて断末魔の叫びをあげならが死ねばいいのか、抱きしめてキスをすればいいのかもわからないので」

日々樹渉はこの台本の趣旨を、主役と結末をいちはやく悟り自身を悪役と定めます。しかし、この台本は不十分であるので、他の役回りも見えてしまう。日々樹は自分が悪役なのか姫なのか分からないという。

これは、日々樹に憧れる英智によって台本が歪んだために発生したものであると考えられます。

じっさい、英智は蓮巳の台本通りになんて動きません。そのたびに蓮巳が筋書を修正していって、そうして行われたのがこの革命です。

 

このへたくそな台本は、「元々蓮巳が思い描いていた台本」を英智が推測して「台本を意図的に・無意図的に壊し」ながら実行し、それを蓮巳が「たびたび修正して」作り上げられています。ぐちゃぐちゃです。話し合いをちゃんとなさいと言いたいところです。

じっさいに思い描かれた物語と、英智が予測した蓮巳の物語、蓮巳の予測した英智の物語が交錯さえしており、それぞれから見た物語がどこまで正しいのかさえ不明です。

しかしまともに話し合ってさえいないので、蓮巳による修正とは、なんとか身内に引き込んだ鬼龍を巻き込み暗躍していったものではないかと思われます。

 

つまり、この物語の台本を作ったのは蓮巳でも、完全に蓮巳によるものではありません。

 

【七夕祭における贖罪】

前回の記事にも載せましたが、蓮巳はメインストーリーにおけるS2でRa*bitsにあの待遇を強いたことを踏まえ、その贖罪に七夕祭のステージを明け渡しました。

蓮巳は自らの罪に対して自覚的な人物であり、また、それをきちんと背負う人物です。

しかし、生徒会が傷つけたはずの他の人物はどうでしょうか。

かつてロビンフッドと称して手をとり弓道部を無法地帯にした月永レオ。ユニットメンバーの幼馴染である斉宮宗。

蓮巳敬人は彼らに対し何の贖罪もしたように見えないのです。

Ra*bitsだけが特別なのか、もしくは、蓮巳自身は彼らに対しては本当に何もしなかったのか。

 

英智夢魔と罵った守沢千秋は、蓮巳に対してはある種信頼をしているような描写さえあります。(同時に深海奏汰からは「もう二度とあなたのことは信じない」とも言われていますが…)

このことからもやはり、蓮巳と英智の行動は少し違うほうを向いていたのではないかと思われます。

蓮巳は生徒会が踏み躙ったひとたちにわざわざ弁明はしないし、糾弾されたなら受け入れるでしょう。けれど、わざわざ頭を下げて回りもしない。それが、蓮巳と、生徒会が意図せずして傷つけた人々との距離感なのではないでしょうか。

 

【生徒会の弾圧】

メインストーリーにおいて描かれたB1を弾圧する生徒会。

そこでも、生徒会(英智)の意志と蓮巳の意志がかみ合うようでかみ合っていないことが伺えます。

 

蓮巳はB1を端から弾圧していきました。

英智は自らがB1を開催し、その圧倒的な実力の、支持の違いを見せつけました。

 

どちらも目的は生徒たちに生徒会の権力を示すことです。しかし、そのやり口がもたらす結果は異なります。

蓮巳はB1を弾圧することで、「本当はもっと輝けるはずなのに」という希望を残しました。本当はもっとできるのに、生徒会のせいでできないだけだ。また、生徒会に見つからなければ水面下で支持を得ることだって可能です。

英智は自らもB1を開催し、三奇人朔間零を公開処刑することで、その可能性さえ潰しました。朔間零さえできないことが、自分たちにどうしてできるでしょうか。

蓮巳と英智は目的がほとんど同じように見えて、そのもたらす結果が異なります。

 

【蓮巳が描いた筋書とは】

蓮巳は犠牲は少なくしたかったのではないかと考えています。

三奇人を五奇人に増やしたのは英智です。月永レオについて、蓮巳は関与してもいない。朔間零の処刑は英智の独断専行です。メインストーリーだって、犠牲を増やそうとはしなかった。

しかし彼は英智を完全に否定もしませんし、蓮巳の目的はほとんど英智と同じものなのです。

 

英智の目的を汲んだうえで、それを確実に実行できるようにお膳立てし、しかし犠牲を少しでも減らそうとしている。その犠牲の中には、英智自身も含まれているものだと考えています。

放っておいたら奇人ともども心中しそうな英智を繋ぎ留めながら、破滅的な英智の描いたストーリを修正している。

英智の目的が先行してあり、その上で物語を大人しく大人しくと修正している。英智がそれを面白く思わないのも頷けます。

 

では、蓮巳は何のために行動しているのでしょか。

蓮巳が生徒会の革命として本来思い描いた物語は、英智を最高のアイドルにさせる物語だったのではないでしょうか。

混沌とした学園を自分たちが統治してやろうなんていう正義の心から実行したわけではない。

そのままでは評価もままならない学院をドリフェスと生徒会で秩序付けて、明確に英智がアイドルとして優れていることを示すための評価基準として優れた三奇人を選定して、アイドルとして彼らに勝つことで英智がアイドルの頂点に君臨したのだと証明する物語。

それが、蓮巳の描いた物語だったのではないかとわたしは考えています。

だからこそその声援も支持も天祥院英智にあり、生徒会への非難は蓮巳敬人が受けている。煌めく英智の光を受けながらその不在時は遠い光を反射して弱く輝き、No.2として生徒会の権力を守り続けている。

英智のために夢ノ咲への入学を決めた蓮巳敬人という男が、そもそも自分自身のためにアイドルとして大成する理由もなければ、アイドル育成に特化した夢ノ咲の現状を憂う理由もありはしないのです。全ては天祥院英智のために。

 

けれど、文字通り血を吐きながらも頂点を目指す友を一番近くにいながら止めず肯定したのもまた蓮巳敬人です。

蓮巳にとって、生まれてしまった犠牲よりも、英智が輝く青春を送ることのほうこそが重要であったのです。しかし、自棄になったように犠牲を生み続ける友をまるごと肯定もしないのが、蓮巳敬人という男です。

生徒会の革命とは、英智と蓮巳による革命です。互いが少しずつ違う方を向きながらも多大な犠牲を払って実行された革命。その犠牲の量について、英智は半ば自分が夢を喰らったのだと開き直るように煌びやかに。蓮巳はその罪を自覚しながらも、それによって生まれた光を大事に守るように、二人は勝利宣言を響かせます。

彼らは多くの犠牲を生んだかもしれないけれど、彼ら自身もまた、傷つかなかったはずがないのです。

 

英智と蓮巳】

そうまでしてなぜ蓮巳が英智に尽くしたのか。

英智にとって蓮巳との出会いはそれこそ人生を変えたものだったでしょう。

自分を叱るひとなんていなくて、自分のことを一番に思うひとだっていなくて、どうせすぐ死んでしまうと自棄になった英智。彼にとって、自分を叱りとばして、一緒にいるときはまっすぐ瞳を見てくれて、英智の死の運命から目を逸らさず誰よりも真摯にその運命を考えてくれた蓮巳が、英智の未来を変えなかったはずがない。

しかし、蓮巳にとっては?

なんだって人並み以上にできて、なのに何をしたらいいのか分からなくて、後悔してばかりだった蓮巳敬人。そんな彼が、唯一、明確に自分が手助けしなくてはと、絶対に見捨ててはいけないと、まるで運命に導かれたように、自分じゃなくてはならないのだと思わせた相手が天祥院英智だったのではないでしょうか。

しかし、そんな蓮巳をもってしても、完全なハッピーエンドを紡ぎきれなかった(=衣更に語った「俺のできなかったことをしてほしい」)し、もう後戻りがきかないのもまた天祥院英智なのではないでしょうか。

(この段については多分ころころ意見が変わると思います、あまりに情報が少ない)

 

 

 

【余談:蓮巳と神崎】

これは、蓮巳のことが好きな人間が、蓮巳を肯定したいがために描いている文章のため、ずいぶんと蓮巳に好意的だと思われるとも思います。

しかし、わたし個人が蓮巳を肯定的に見る理由のひとつに、彼の人間関係があります。

本題とは外れるのですが、彼を慕う人物のひとりに、神崎颯馬がいます。

これは鬼龍紅郎でも守沢千秋でも類似のことが言えるのですが、神崎が一番顕著だと考えます。)

 

神崎は生徒会と直接関係はなく、なんなら生徒会のやり口は気に食わない。水面下の争いだって関係ない。S1でUNDEADに嵌めらた際さえアドニスにつられて機材の片付けを手伝おうとまでした男です。愚直で、単純で、誠実な男です。

 

そんな神崎が「公明正大」と称し、「そんな将にこそこの神崎颯馬は仕えたい」とまで言った蓮巳敬人という人間が、本当に汚れきったひとなはずがない。

そうわたしは思い、なんとかして最悪のストーリーを否定しようとしています。蓮巳敬人、幸せになってほしい。