蓮巳のはなし①ストーリー編

蓮巳敬人の話をしましょう。

 

堅物の生徒会副会長。生徒会長の幼馴染にして右腕。学院のNo.2ユニットのリーダー。長い説教は好きだけれど長ったらしい話をされるのは嫌い。寺の息子。左ハンドル。元漫画家志望。三奇人朔間零の友人。元デッドマンズ。だんだん不穏になってきましたね。

蓮巳敬人は定型的な真面目なつまらない男かと思いきや、その実見せる面があまりに多様でつかみきれない男です。

そうなんです、蓮巳敬人という男はね、ただの型に収まってくれるような男じゃないんです。見る度に印象が違っていて敷居が?高く見えますね。そんなことない、そんなことないんですよ。

基本的にあきらさんのストーリーを追っていきます。

ネタバレというより、ストーリーは一応知っているうえでの蓮巳推し視点からの解釈のひとつだと思って読んでください。

 

【フラワーフェス】

メインストーリーの前に、蓮巳敬人がメインストーリーの際どんな心持でいたのか少し予習したいと思います。

フラワーフェス、はじめての蓮巳敬人ランボです。

英智不在のfineの面倒を見ながら紅月が主体となってフラワーフェスに参加します。

その時の蓮巳は自信ありげに口角を上げた素晴らしいjpgなんですけれど、あの笑顔が示すものは自負と自信なんです。

多大な犠牲を払いながらも英智と敬人が必死になって築き上げた、「生徒会が牽引する正しい学園」の姿を目にして、自分たちは正しかったのだと、これからの夢ノ咲学園へ希望を胸に一歩を踏み出す。それがこの年度の蓮巳敬人の物語の幕開けです。

 

【メインストーリー】

メインストーリーでの彼は、主人公であるtrickstarの最初の敵として現れました。

S2にてスバルの大事な後輩を踏みにじり、学院に圧制を敷き、きっと輝けたはずのアイドルたちの芽を端から潰して回った男です。フラワーフェスの印象から随分離れましたね。正義の味方のように描かれた彼は一転して悪者です。

その結果、元ユニットメンバーの朔間零の手によって罠に嵌められtrickstarの輝く足掛かりにされました。

 

朔間零と対峙する羽目になったときの彼の心中は「不測の事態は苦手だが、冷静に対処しよう」というものでした。

あれだけ高圧的に他生徒達を弾圧しておきながら、何にでも対応できる万能じゃないんです、蓮巳敬人という男は。己が完璧だとうぬぼれてはいない。けれど、まるで己が完璧であるかのように繕い振る舞っているんです。

この時のボイスが蓮巳ボイスの中でも屈指の高校生らしい上ずった声なので是非聞いてください、梅原さんありがとう…

そして、彼のユニットの「いつも通りのことを正確に行うだけ」という性格は、彼のこの性質をカバーするためにあるように思いますね。

 

この時の蓮巳を囲う紅月の2人は、決して完全な蓮巳の味方とは言えませんでした。

まずは同じ三年生の鬼龍紅郎。trickstarに同情的で、生徒会のやり口の気に食わないというスタンスです。ただでさえ彼は、このvs trickstarの直前に蓮巳の手で後輩の初めての晴れ舞台(=龍王戦)を中止させられており、S1には出るかも怪しいほどでした。律儀で義理堅いほうなのでS1にはちゃんと出ました。ノベライズにおいてはもう少し鬼龍は蓮巳に同情的ですね。

次に二年生の神崎颯馬。神崎は「蓮巳個人」の味方ではあるものの、「生徒会」の味方ではありません。生徒会のやり口は気に食わない。生徒会長に刃だって向ける。しかし、蓮巳敬人という個人のことは心底慕っていますし、彼の助けになることなら喜んでします。

二人とも、蓮巳敬人が選んだ紅月のメンバーですが、蓮巳の目的(=生徒会の目的)には賛成していません。そんな中で、蓮巳敬人は、生徒会長不在の生徒会のトップとして、いつ会長が戻ってきてもいいように粛々と生徒会業務を行っています。

 

しかしそうやって会長のために。英智のためにと味方もろくにいない中奔走する蓮巳ですが、その英智さえまともに味方ではありません。

学院に戻ってきた英智は蓮巳が作り上げた堅牢な城になんて収まってくれません。SSの出場権を賭けたDDDの開催を宣言します。順当にいけばfineがSSに出場できないわけがないのに、そうなるだけの土壌を蓮巳は作ってきたのに、英智はそれを壊します。蓮巳が再戦を誓ったtrickstarに至っては解体さえします。緑髪の子かわいそう…

 

そして迎えたDDD。蓮巳の所属する紅月は参加しませんでした。

何故でしょうか。

英智の敵にならないためです。英智と対峙することは蓮巳の目的に反するためです。英智の目的を潤滑に果たすための駒として雑用を一身にこなします。

しかし、その際蓮巳は「紅月のDDD出場」は禁じませんでした。これが蓮巳は支持すれども生徒会は指示しない、が成り立つ所以だと思うのですが、蓮巳自身自分と紅月を切り離しているところがあります。蓮巳は紅月というユニットを英智の目的のために利用しますが、紅月というユニットを蓮巳だけのものとしては見ていない。そういうところが好きですね。

また、敵に塩を送るような真似さえしてみせます。衣更真緒。彼を紅月へ、と英智が言ったとき、確かに蓮巳は衣更を拒みませんでしたし、彼を気に入っていることを認めました。じっさい、気がきくほうではなく事務作業が得意なわけでもない二人を抱えて膨大な量の仕事を処理する蓮巳にとって、同じ生徒会で仕事の速い衣更を紅月に引き込めたのなら随分な収穫なはずなのです。

けれど彼はそれを是としなかった。

生徒会副会長としてではなく、蓮巳敬人という、ひとりの過去を悔いる男として、衣更の背中を押します。かつて何でもできる気になって、何をすればいいかもわからなかった自分を衣更に重ねながら、自分にできなかったことをしてほしいと。そして彼は、夢を仮託した後輩の輝く姿を目にしながらその出番に幕を閉じます。

 

メインストーリーでの彼は、その身に生徒会が生んだ生徒からの憎悪を一身に背負い、生徒会が生んだ輝きは英智のために捧げてひた走る役回りでした。そのうえ、そうやって駆けずり回ったところで何が得られるわけでもない、英智自身にさえ否定されます。そして最後に、そういったしがらみも立場も捨てた素の蓮巳敬人として後輩の背を押し、ろくに光が描かれないまま幕を閉じます。かわいそう…あまりにかわいそう…それなのに主人公の敵でなんだか面倒な性分のために読者からも反感を買いがちなわけです、か、かわいそう~~~!!!

 

さて、DDDに紅月が出場しなかったことに異を唱える人物がいるわけです。そう。天祥院英智そのひとですね。ですが英智が気に入らなかったのはそこだけれはありません。

 

【七夕祭】

七夕祭にて、Ra*bitsと対峙し勝利した紅月ですが、そのリーダーはとってつけたような理由を明朗に語りだし、勝者しか残れないはずのステージをRa*bitsに明け渡します。S2での贖罪を、ここで行います。

蓮巳は過去の自分の行いを否定はしません。けれど、そこでつけてしまった傷もまた、彼は否定しませんでした。

けれどここにも意を唱える人間がいるわけです。天祥院英智ですね。彼はRa*bitsをミートパイに仕立て上げようとします。お気に入りの斉宮宗を引きずり出し、大好きな渉を隣に侍らせ、過去の蓮巳との思い出を肯定して現在の蓮巳を否定します。メインストーリーといい、七夕祭といい、蓮巳は英智の味方であるはずなのに、英智はあまりに蓮巳にやさしくない。それは喧嘩祭への布石でした。

 

【喧嘩祭】

神イベこと喧嘩祭です。復刻やってください。本当に。これで蓮巳を好きになったユーザーは多いのではないでしょうか。

ここまで蓮巳にあんまりな仕打ちを繰り返してきた英智はついに紅月に解散をつきつけます。なぜ紅月が二番手に甘んじているのか。なぜDDDでfineの寝首を掻こうとしないのか。なぜ、天祥院英智は蓮巳敬人に一番を譲ってもらわなくてはならないのか。あまりに過保護な敬人に英智が絶縁状を叩き付けます。

 

喧嘩祭というB1は、学園全体を巻き込んだ盛大な幼馴染の喧嘩です。

幼い日、きっとふつうの子どもがするような遊びはしなかった少しずれた二人だけの世界を築いていた彼ら。どんなにわがままを言ったって叱られることのなかった英智を叱りとばした蓮巳。いつか英智のお葬式は敬人があげてくれるのだという、そんな約束をしたようなおかしな愛しいこどもたち。

彼らはいつしか対等ではなくなっていました。蓮巳は英智の右腕を名乗り、英智の駒となりました。けれど英智の望みはそうじゃない。ふつうの、ただの友達になりたい。そんなわがままを描いた物語が喧嘩祭です。

 

わがままです。これは英智のわがままです。しかし、学院の絶対である皇帝がこんな盛大なわがままを言えるのは、蓮巳敬人にだけなんです。

一度縁を切って、そして結びなおすまでの喧嘩祭。

これは、英智と蓮巳にとっての物語であると同時に、転校生をようやく蓮巳が認めた物語であり、紅月というユニットについて明かされた物語であり、鬼龍紅郎が「血よりも濃い絆」「我ら紅月」などと言い始めた物語です。

 

ここで明かされたのは、敬人と英智の過去でした。

かつて漫画家を目指していたはずの敬人が、英智をおいかけるように夢ノ咲への入学を決めます。「どちらも人を喜ばせる職業だろう」と。

英智には敬人の人生を奪ってしまったのだと、夢を喰ってしまったのだという自責があります。メインストーリーでは夢魔とまで呼ばれた英智が、奇人たちのことも喰い尽くした英智が唯一喰ってしまったことを悔いたのが蓮巳の夢です。

しかし蓮巳は否定します。自分は夢を喰われたりはしていないと。そしてそれを互いに伝えたこの日が、それぞれの再出発となりました。

 

英智を支えるために作られた「紅月」というユニット。英智のいるfineの圧倒的な光を受けることで輝く、決して自ら輝くことのないはずだったユニットが紅月でした。No.2に甘んじているのではないのです。No.1なんて眼中になかったのです。何故なら最強を最強たらしめるために存在するユニットだったからです。

fineが打倒されたことで、紅月の存在意義は消滅したも同然です。最強が最強ではなくなった現在、英智が敗れ、蓮巳と英智が必死になって掴み取った栄光が崩れ落ちた現在、紅月はNo.2である必要さえなくなっていたのです。

しかし、英智との縁を一度切った紅月だからこそ、「存在意義が消滅した」ということさえ消滅します。「血よりも濃い絆で結ばれた」彼らは、ここから生徒会も天祥院英智の光も関係ない、「自ら輝く月」となりました。

喧嘩祭という物語は、英智と蓮巳がまっすぐ対等になる物語であると同時に、生徒会ユニットの紅月が絆で結ばれた紅月に生まれ変わる物語でした。

 

【喧嘩祭~返礼祭】

時は一気に進み夏から冬へ、返礼祭です。

この期間の蓮巳は何をしていたかというと、ひたすらいい先輩をしていました。

 

流星隊と一緒になって行われた風雲絵巻ではひとりぼっちで同好会をする忍に好意的な言葉をかけ、いつまでも自分がいるわけではないからと神崎に紅月の代表を任せ後輩育成に努めます。絶対に神崎の味方であるとまで言ってくれました。

ロビンフッドでは弓道部において以外と奔放な一面を見せました。かつてレオと共に弓道部にいた怠け者たちを成敗し、いまの平和で無法地帯の弓道部を作り上げました。英智が壊したレオと蓮巳が組んでいた事実、恐ろしくてなりませんね。

ティーパーティーでは英智が蓮巳の同人誌を持ち出します。そして司とも少し舐められながらもまともに先輩後輩している姿が見られました。

エージェントでは人生初のクリスマスパーティーをしました。英智と敬人、双方の要望に応えながらなんだかんだうまいこと処理する衣更、という、英智のこと散々わがままと言うけれど敬人もわがままだよな…という甘えた一面も見せてくれました。

 

閑話休題、返礼祭へ参りましょう。

 

【返礼祭】

もう三年生は引退するのだからと言ってなるべく手出しをしないように努めていたはずの蓮巳が、なぜか唐突にいい笑顔でデッドマンズを名乗り出し蓮巳推しを混乱の渦へ落とし込んだイベントです。

 

蓮巳は過去を悔やみはすれども、過去を消し去ろうとしません。

己のしたことのひとつひとつがつけた傷も背負って生きてくれる男です。

その男がかつてユニットを組んでいた朔間零のために、一度は折った筆を再び執ったのがこのストーリーでした。蓮巳敬人が、旧友であり先輩である朔間への返礼のストーリーです。

連絡もろくにつかない神崎を案じながらも自身は影のように朔間零と大神晃牙を結びます。作家は物語を紡げどもその物語に存在しないように、蓮巳もまた物語を描きながらも影へと身をひそめるはずだったのです。

 

しかしまた、蓮巳自身も返礼をされる側でした。

ストーリーテラーとして全面に出ることのない蓮巳は、以後の追憶イベでは全く顔を見せません。しかし、同じく物語を紡ぐ側の存在であった返礼祭においては、神崎颯馬により笑顔を見せることとなりました。

この笑顔を、冒頭のフラワーフェスと比べてみてください。

フラワーフェスでは自信ありげで緊張感のある、自分で自分を肯定して作った笑顔だったけれど、一年の終わりに彼が見せた笑顔は自分のしたことを他人に肯定されることで湧き出た笑顔なんです。どのカードを見てもこれ以上にただただ感情だけが前に出たカードはないのではないかと思います。それだけの力のある☆3でした。

元々アイドルになりたくてなったわけではない蓮巳。英智のためにこの道を選んだ蓮巳がその先に辿り着いたのは、自分自身が築き上げた人間関係による祝福でした。

英智のためにアイドルをめざし、英智のためにユニットを作った蓮巳は、神崎によって英智とは無関係に肯定されます。そして、本来ならばきっと蓮巳が、ストーリーテラーが去ったあと、学園に残るのは英雄の名のみであるはずだったのです。蓮巳敬人は、紅月は、太陽が隠れてしまえば一緒に陰る存在であったはずだったのです。

けれどそうはなりませんでした。

喧嘩祭において英智に照らされて輝く月から自ら輝く月へと変化した紅月は、そのまま陰ることはありません。神崎から蓮巳への返礼は、紅月の存続でした。

 

これがひとまずの、メインストーリーのある年度における蓮巳敬人の一年です。夢ノ咲の影を背負いながらも光を信じた男の一年です。

 

でも言いたいことはまだまだたくさんあるんです…

過去の蓮巳と英智のはなし、デッドマンズの蓮巳のはなし、何を考えているかもつかめない蓮巳敬人の一貫しているぶぶんのはなし…それはいずれまた…そちらはほとんど妄想みたいなことになるとは思いますが…